神戸元町労務管理サポート 社会保険労務士 角森洋子(元労働基準監督官)による就業規則作成、変更支援

就業規則作成・改善相談室

模擬 職場巡視 派遣労働法解説編

職場巡視研究班執筆

 職場巡視研究会の実施に当たっては、安全確保や生産体制の確保等の事情もあり現場近くまでなかなか入れない現実があります。そこで、本日は現場の巡視経験のない産業医(以下先生という)を副所長が案内するという設定で、模擬体験をしていただきます。
 「先生、今日は製造業の現場などを職場巡視しますが、最近は派遣労働者が製造業の現場でも就労していて、派遣労働者の健康確保において産業医の役割が求められていますので、あわせて巡視していただきます。

高所作業現場

 「先生、現場に着きました。ちょうど。足場を使って高所作業をしています。塗装作業ですね。とりあえず昇りましょう。体力の方は大丈夫ですか。垂直タラップなら自分の体重と同じかそれ以上の握力がないと現場に立入りさせないという事業場もあります。ここは足場の昇降ですから、そこまで筋力は必要ないですが。」

 「しかし、副所長、ここの足場設備はこれで大丈夫ですか。初めて昇るんだけど。」

 「そうですね。手すりが設置されてない箇所がありますね。作業の進行によって手すりが邪魔になり、取り外してそのままになっているという現場を見かけることがありますが、危ないですね。こういうときは安全帯をつけて、さらにヘルメットを被って作業をしなくてはいけないのですが、ここではそのどちらもしていませんね。先生、どうぞ先に行ってください。」

「足が震えるのだけれども、慣れないせいかな。副所長先に行ってください。」

「先生、いいのですか。私を先に行かせて。私が墜落したらどうするのですか。落ちてもいいのですか。」

「どうやら言ったもの勝ちのようですね。先に行きますけど、怖いですね。墜落防止措置が全然無いですよ。こういう場所で就労しているのですか。強風が吹いているし、不慣れだし、下を見るとフラッとしますね。墜落の危険を身をもって感じられます。」

「そこです、先生。実際にこのような危険な箇所に来て頂いたのは、高血圧の方や心臓などに基礎疾患のある方もいるでしょう。、暑いときも寒いときもあるでしょう。そういう作業環境も勘案して、一般健康診断の結果を見て頂き、事後措置についてご意見をいただきたいのです。」

「なるほど、現場に来てみなければわからないことだね。参考になります。」

 「先生、この現場は非常に危険です。設備的には手すりの設置がありません。作業者は安全帯などの墜落防止措置をとっていません。墜落等のときに被害を少なくするヘルメットも被っていません。急迫した危険があるときには、労働基準監督官は、現場を現認して作業停止命令や設備の使用停止命令を出すようです。」

「そうですか。」

 「先生には、産業保健の視点から、指導をお願いします。」

 「一般健康診断の事後措置として、労働者の健康の保持のために必要と認めるときには、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少、作業環境測定の実施、施設。設備の改善等を指導していただきたいところです。もちろん、高度の医学的所見に基づいて指導いただくわけです。」

 派遣先 派遣元
一般健康診断 実施義務
健康診断実施後の措置 実施義務 権限の範囲で実施義務
設備等使用停止命令 適用

 「しかし、副所長、この現場はどうみても建設業ですね。労働者派遣を行ってはならない業務は、労働者派遣法第4条に。@港湾運送業務、A建設業務、B警備業、C紹介予定派遣の場合を除く病院等における医療関係の業務となっていて、違反の場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっているようですね。」

「そうです。建設業では派遣労働は認められていません。法の説明のためにあえてご案内しました。平成16年3月、製造業への派遣について改正派遣法が施行されました。これまでは、派遣というと事務職が多く、危険有害業務は限定されていました。製造業が解禁になると、労働災害の増加が懸念され、また、健康管理の必要性の高まりが指摘されています。これまでは、若い女性が派遣され。VDT対策セクハラによる職場のストレスが問題となっていましたが、この頃は、団塊の世代の高年齢男性が派遣され生活習慣病対策も重要な課題となっています。」

「派遣労働者の安全衛生管理体制について見てみます。例えば、正社員だけの場合は常時使用する労働者数50人以上の事業場は産業医の選任義務があります。では、派遣労働者はこの50人の中にカウントされるのでしょうか。

設置・選任要件 常時使用する労働者数
派遣元事業場 派遣先事業場
安全委員会 派遣に出ている労働者数を控除する。 派遣労働者を含む。
安全管理者

「以上のように、安全委員会の設置、安全管理者の選任において、派遣元では、派遣されている派遣労働者数を控除しますが、総括安全衛生管理者、衛生委員会、衛生管理者、安全衛生推進者、産業医の場合においては、派遣されている派遣労働者数を含めてカウントし、設置、選任要件を判断します。派遣先事業者においても受け入れた派遣労働者を含めてカウントして、設置、選任要件を判断します。」

「派遣労働者を例えば安全管理者として選任できるかどうかですが、当該事業場の危険有害要因を熟知している者を充てるべきである、とされ派遣労働者は該当しないとされています。同様に、安全衛生推進者、専属産業医は、事業場に専属する者から選任すべきとされています。」

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有機溶剤作業現場

 「先生、ここは有機溶剤含有塗料による吹きつけ塗装の現場です。」

「ずいぶん刺激的な臭気がしますね。」

「そうですね。こういう場合は、換気装置の能力要件や配管の目詰まり等のメンテナンス状況に問題がある場合が多いようです。厚生労働省告示によると、作業環境評価基準ではその別表で、物質の種類ごとに管理濃度が定められています。」


労働安全衛生法による作業環境測定の結果の評価ですが、この管理濃度を目安に、第1から第3管理区分とされています。このような臭気を感じるときには、管理区分は2以下であり、改善を要する場合が多いといえます。産業医には、実際に現場に出て、臭気、温度、通風、湿度などを体験したうえで指導していただくべきだと思います。」

「なるほど、実際にこうやって現場に出ると、有機溶剤の臭気がよくわかるね。」

「有機溶剤等特殊健康診断結果を現場巡視の前後でみていただいて、産業医としての意見をいただきたいところです。」

派遣先 派遣元
有機溶剤等特殊健康診断 実施及び派遣元に送付 書面を5年間保存
特別管理物質の製造等 実施及び派遣元に送付 書面を30年間保存


「先生、現場で作業を実際に見ていただいてどうでしたか。何かお気づきですか。」

「そうですね。作業者の肌が露出していることが気になりましたね。有機溶剤が揮発すると空気と共に呼吸し、これが肺で血液中に入り、脳や肝臓などに到達します。脳の細胞は多量の脂質を含んでいるので脂溶性の有機溶剤を吸収します。中枢神経への影響が多く、めまい、頭痛、疲労感、理解力の低下等の症状が起きます、麻酔効果もあり、中毒や眠り、時には意識を失い死に至ることもあります。皮膚からの吸収ですが、有機溶剤の言って一滴でもたやすく体内に入り込みます。現場で実際にみてみると、作業者に対する教育が必要なことがよくわかりました。」

「それに、先生、気付かれましたか。作業者が着用しているマスクですねが、あれは防じんマスクでしたね。研磨作業には有効ですが、塗装作業ではいったい何のために着けているのかと言わざるをえません。有機溶剤の場合には国家検定品の防毒マスクの着用が必要ですが、仕組みは、溶剤を附属の吸収缶に吸着させます。高濃度の作業環境ですと、すぐに吸収缶が破過しますから、作業時間、濃度管理も大切です。また、見所として、この吸収缶は対象物質によって色分け表示してあり、有機溶剤の場合は黒になっています。」

作業環境等についての職場巡視の留意事項
局所排気装置の設置の除外規定(屋外作業等)に留意
排気ダクトに溶剤の目詰まりがあり、所定の能力がでていないとき
気流を嫌がり、寒気対策で、装置の稼動を停止しているとき
火気使用の暖房装置を溶剤近くで使用しているとき
有機溶剤等が人体に及ぼす作用等を掲示周知しているか
定期自主点検の実施状況確認、作業環境測定結果の確認
作業環境管理は派遣先の義務

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フォークリフト無資格作業

「先生、次の現場に着きました。」

「これがフォークリフトですか。初めて見ました。」

「屋外や倉庫内で荷の積み上げ、積み下ろし作業に活躍しています。しかし、、機体の前方に荷を積み、高く持ち上げますので、バランスを崩しやすく、高度な技能・経験を要する危険作業です。労働安全衛生法では、技能講習資格を要件として作業を認めています。」

「無資格での作業も多いということですか。」

「派遣労働者の場合ですが、どうやら研修する時間・費用を惜しんで、無資格を承知で派遣し、派遣先も同様に承知の上で作業を行わせ、結果、氷点下30度の冷凍庫の中で、マグロを荷役中に崩れた荷の下敷きになり死亡したという事例が新聞報道されていました。報道では、この方は、当時24歳、専門学校を卒業した後、転々としてやっと派遣会社に勤務したと父親は喜び、正月には、妹に小遣いをあげたとありました。」

「派遣先・元事業者において派遣労働者を教育して、技能の向上を図っていくという、いわゆる育てる意識があるのかが心配ですね。安全・衛生の面で製造業への派遣労働はいくつかの課題がありそうですね。」

「それでは先生、労働安全衛生法について説明いたします。」

適用条文 労働安全衛生法上の措置義務責任の所在
派遣元 派遣先
作業主任者の選任 14条
職長教育 60条
就業制限 61条
雇入れ時の安全衛生教育 59条1項
危険有害業務就業時安全衛生教育 59条3項
危険有害業務従事者に対する教育 60条2

「副所長、表にするとわかりやすいですね。」

「罰則の適用について、説明いたします。報道では、就業制限違反の作業を指示したのは、派遣先ですから、労働安全衛生法違反として書類送検され、略式命令を受けたと記事にあります。派遣元ですが、実際には現場に責任者がいなくて、現認していないことが多いのですが、派遣法第45条7項では、派遣元が、契約条件では、特別教育、就業制限、病者の就業禁止、作業時間の制限に抵触してしまうこと、それを承知したのに、あえて、派遣元が労働者を派遣し、また、現実に、今回のように派遣先が無資格で就業制限業務に就労させ(死亡災害の発生に拘わらず)たとき、派遣元に労働安全衛生法の罰則規定を適用するとあります。」

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プレス作業

「副所長、すごい騒音ですね。あの作業の方は終日、立ち作業でしょうか。」

「そうです。終日、同じ動作を同じ姿勢で繰り返し行います。」

「産業医としては、終業時体操の導入などを提案してみます。作業開始前の体操は普及していますが、終業時に、身体のコリをほぐして、リラックスする、翌日に備えるということは重要です。」

「いいですね、先生。終業時体操、是非とも広めたいですね。」

「立位姿勢については職場改善のヒントを聞いたことがあります。」

○腰曲げを必要とする作業をできるだけ避ける。
○作業面の高さは背を自然に伸ばし、かつ肩を楽にして作業がやれるくらいにする。
○作業は手をできるだけ身体に近づけた自然な位置で行う。
○作業に必要な計器はたやすく届く位置にあり、肩の位置より低くする。
○足周辺に十分な空間がある。

「そうですね。それに、背が低い場合の補助の作業台ですが、踏み外し等の危険も考慮することが求められます。いい指導をありがとうございます。疲労もやや減少することでしょう。」

「先生、これがプレス機械です。工場では指を切断した事例が報告されています。」

「すると、この機械で指を挟まれたのですね。一日に何回も作業を繰り返すうちに、危険限界と呼ばれている金型と金型の間に手を入れたまま、起動してしまうわけですね。終日、緊張を持続するというのはかなり困難なことですね。」

「そうです、先生。機械による安全対応が求められています。例えば、両手押しボタン式の起動装置ですと、必然、手が危険限界に入りません。」

「なるほど。」

「しかし、作業の効率を追求するために、あらかじめ右側のスイッチを器具で押しておいて、左手で起動するという荒技をやっている作業者がいることがあります。非常に危険です。職場巡視ではそのような作業標準違反も見つけることがあります。」

「そういうときは、指を救った、健康・安全を確保したという実感が持てますね。」

「労働災害発生の場合について説明します。労働者派遣法第26条に次のように規定されています。」

労働者派遣契約の安全衛生に関する事項
○危険・健康障害防止措置
○健康診断の実施
○採光などの環境管理
○安全衛生教育
○免許などの就業制限事項
○労働者死傷病報告などの事項

「労働者私傷病報告様式第23号は平成16年3月より改正され、提出事業場の区分として,派遣先、派遣元の欄ができました。報告は双方が行うことになっています。また、派遣労働者が被災した場合は、派遣先の事業場を書く欄が新設されています。派遣先の事業者は、労働者私傷病報告を提出したときは、その写しを派遣元の事業者に送付(派遣法施行規則第42条)することとされています。
労働災害発生の場合は、労働基準監督署から、災害調査があり、原因究明・再発防止対策の樹立に関し、行政指導を受けることがあります。また、安全措置等の法違反がある場合、現場を実況見分され、調書などを録取されることもあります。いわゆる送検です。被害者に対しては、労働者災害補償保険の手続き支援が求められます。これらは、担当者だけの課題ではなく、事業場全体の課題として、安全衛生委員会の付議事項とされています。」

「作業環境対策として、まず、作業者の耳栓を確認してください。保護具としての耳栓ですね。着用しているかどうか。それから、騒音測定及びスポットクーラー近くでの温度測定をしましょう。」

「これが騒音計ですね。」

粉じん作業

「先生、ここが粉じん職場です。アーク溶接作業を研修します。

「火花が飛んでいますね。危なくないのですか。」

「危険有害業務就業時には特別教育が必要です。あれが、アーク溶接作業ですが、特別教育が必要です。」

「大きい加工物であちこち移動しながら溶接作業するという場合は衛生上有効な設備は設置しにくいのですが、固定箇所で作業する場合は、局所排気装置などの対策が可能です。このときは、法は、特定粉じん作業として設備的対応を求めています。」


「なるほど、法は、最低基準を求めているけれど、衛生面での対策は、法定以上のレベルを求めるべきであり、この現場では集塵機を稼動させていますね。それでは、作業者の安全衛生確保のための保護具はどうでしょうか。」

「まず、ヘルメット、防塵マスク、アークの有害光線から目を保護する遮光面、感電の危険を防止する溶接棒ホルダー、火傷の危険に対しては分厚いプロテクター、保護手袋、研磨粒子飛散防止の保護眼鏡などです。」

「夏場は暑くて大変ですね。スポットクーラーは必要ですね。」

「健康面ではじん肺防止が課題ですが、派遣労働者の場合はどのような法規制がありますか。」

じん肺法 派遣元 派遣先
法令の周知(掲示など) 35条の2 ×
じん肺健康診断 8条 ×
じん肺管理区分決定 12条 ×
じん肺の予防措置 5条 ×
健康管理教育 6条 ×
作業の転換 21条
転換手当 22条 ×
派遣終了後は派遣元
が措置を行う。

「この表のとおりです。防じんマスクについて、産業医が事業場で指導するときに留意すべきことを説明します。国家検定合格品かどうかをまず確認願います。また、マスクからの空気漏れを指導してください。マスクを装着し、フィットチェッカーを上げて吸気口を閉じ、息を吸い込みます。面体が顔に吸い付くように感じられれば、マスクが正しく密着しています。指導後は、漏れ率が減ります。」

派遣労働者の安全衛生管理責任

「最後に、先生、派遣労働者への安全衛生管理責任について再度説明いたします。
派遣に代表される非正規従業員を受け入れる企業が拡大しています。労働者の健康管理は、労働安全衛生法上は、健康診断の実施など事業者にその義務がありますが、特別規定(派遣法第45条)により、労使関係のない派遣先事業者にも労働安全衛生法上の事業者責任を負わせています。
しかし、平成17年12月6日付けでも新聞報道されたように、実態は工場側の指示を請けて働く労働者なのに、派遣法の規制を受けない「業務請負」を偽装し、労働者の安全衛生管理責任があいまいなままにしているとして、ある労働局に、指導を求めて申告を行ったケースがありました。そこは、自動車部品製造業であり、正社員に混じって、車の変速機の部品製造、180度の高熱で金属とゴムを接合し、火傷が耐えない状況にも拘わらず、工場の医務室では、社外工員として医薬品の支給を拒否されていました。」

派遣労働者の安全配慮義務
業務上の指示 雇用関係 安全配慮義務
派遣先事業者 ×
派遣元事業者

「今回はこれで終了いたします。先生、これからも実際に現場に出て実績を積まれますようお願いいたします。」
「えっ、もう終わり、もっと聞きたい、読みたい、という方々がおられましたら、第2弾準備中です。」


改正労働安全衛生法
派遣労働者に対する面接指導については、派遣元に義務が課せられていること、」
神戸元町労務管理サポート
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プロフィール

角森洋子
特定社会保険労務士・
労働衛生コンサルタント
(元労働基準監督官)

詳しくはコチラ

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