神戸元町労務管理サポート 社会保険労務士 角森洋子(元労働基準監督官)による就業規則作成、変更支援

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元気な企業は健康から(10/9)

吉村由紀夫
 
社長さん温泉にでも入ってのんびりしてきなさいと言われ、取引先にしばらく工場を預けて戻ってみると、機械類は全部売却され何も残っていなかったという嘘のような話がありますが、社印も預けて任せるという判断をしたこと自体常識では考えられないことです。取引先は金策で追い詰められていたようです。経営者はお疲れのときもあるでしょうが、疾病を回避し、まずは健康でなければ、常識的な対処をし、大きなトラブルを予防するkとができないときがあります。とにかく働いて、企業は利益を上げなければなりませんが、その前提として、「元気な企業は健康から」について解説いたします。

    1 健康を経営に生かすという視点

 最近のある病院の調査によりますと、二次健診を受診した方の8割以上が早飯であったといいます。指導をしても、ゆっくり食べるといらいらして改善は非常に困難なようです。人間の生理機能をみますと、食事の場合にも実に精巧にできていて、食べ物を見る、味わう、噛むという一連の行為の中で、例えば、今から約20分後には噛み砕かれてこの内臓に到達するから消化酵素を用意して、というように身体全体が準備行動を行います。

早食いの場合は、もうこれ以上摂食しないようにというサインは食べ始めてから約20分以上たたないと出来ませんが、忙しい経営者はカレーなら3分で食べてしまうのではないでしょうか。だからサインが出たときにはすでに必要量以上が胃にあるということが毎日続きます。多くを食べていなくとも、その行動自体により、肥満や成人病に至ることも指摘されています。

経営者にとって、成人病、肥満に限らず、メンタル面などの生態メカニズムを理解、研究した上で経営に生かすという視点を持ち、自分の健康管理に生かし、巡業員の管理に生かしているかが大事であります。

    2 疲労と経営面

 生理面からいうと、逆なようですが、働く前にまず睡眠ありきです。睡眠中には、痛んだ血管などの修復作用、記憶した事柄の生理作用など身体、脳にとって大切な作用が行われます。睡眠効果が一番期待できる時間帯は午後10時から午前5時の8時間といわれています。すると本来、経営者が健康で働くためには、この睡眠時の作用を念頭に1日24時間を効果的に生活しなければならないわけです。

経営状態により、時間帯もままならず、睡眠効果を減じ、寝付きを悪くし、中途も目覚めやすく、朝は床離れしにくい、ということであれば、慢性的な睡眠不足からの成人病などの遠因にもなりますし、睡眠による修復作用が足りないわけですから、痛んだままの疲れた身体で就労することになり、注意力が低下し、ミスが増え大きな事故を起こす危険すらでてきます。このような結果の重大性を考えるとき、健康管理の視点のひとつでもある「睡眠」に目を向けて、危険の目を摘み取ることが経営者の力量ともなります。

疲労は人間関係にも微妙に関係し、明るい職場の雰囲気せあれば疲労感は感じられません。朝の挨拶、上司からの楽しい話題の提供、笑い、これらについて、雑談でサボっているというように経営者が感じるのであれば、その職場での疲労度は高いです。事例として、毎日終業後に電話をして、その時間に誰が残業しているか、誰が帰ったか確認していた経営者がいましたが、その後過労問題などのトラブルが発生したそうです。

ところで、経営者が生産性を高めるために配慮をしている中、部下を人前で罵倒するような人物が管理者であったらどうでしょうか。たちまち生産効率は低下し、退職者や異動希望者、メンタルヘルス問題が発生することにもなりかねません。心の健康度が身体の疲労をカバーし、「職場の健康」、「効率・生産性」を高めるわけです。

    3 やる気を引き出す経営者

 現認放置という言葉を覚えていてもよいと思いますが危ない状態を見たのに、そのまま何も言わずにいれば、そのことを容認したものとみなされることがあります。損失発生確率が高いのに、放置したことにより、実際に事故が起これば、そのこと自体悔やまれますし、営業上の損失、報告を聞いたり社員を叱責する時間のロス、社員が落ち込むことによる損失、社会的、経済的、時には刑事的責任を負うことすらあります。

例えば、新人採用、配置転換、人事異動、出張、単身赴任などのときに最初から不調が起こるという視点で対処すべきですが、放任し、重大事案になってからあわてるということがあります。

     早期発見のポイント・変化のとき

仕事が遅くなった。残業が多すぎる。

 時期 : 新入、配転、定年、結婚
環境 : 昇進、上司、部下、新規職務、納期
 もちろん優良企業もあるわけです。例えば、顧客と直に接するのであるからいろいろな情報があるし、ひょっとしたらトラブルがあるかもしれないので、配達から帰ってきたら必ず声をかけてくれる、残業に当たってはだらだらさせてしまいがちだから、時間を限って指示してくれる、マニュアルに基づいて指示を出す、いきなり怒らない、店員に考えさせる育成的指示を行える、そういう管理職・上司が人気を集め、あの人のところ、あの職場で働きたいなどと思われています。ここに経営上の視点を感じないでしょうか。職場の人間関係も良好、満足度も高く従業員が働いてくれる、売り上げも上がる、そういう職場を形成する経営者とそういう視点を持たない経営者とでは、この時点で差がでるわけです。

     早期発見のポイント・日常のとき

勤務状況 : 欠勤、遅刻、シフト変更
能率低下 : ポカミス、クレーム
態度 : 無愛想、挨拶しない、ハイテンション
対人 : 無口、邪推、喧嘩
話題 : 配転、異動、疲れた

     4 職場の疾患を防止し経営効果を上げる

 経営者は、職場を原因とする疾患があることを理解し、これらを予防できるという認識を持つことが肝心です。例えば、心身症は身体において胃腸疾患や糖尿病などの慢性病といった異常が現れていますが、原因としては過剰な残業やノルマなどが背景にあり、薬などの対症療法では効果はなく、職場のストレスに対応することが求められます。うつ病は現代社会においては弱い人がかかるというものではなく誰もがその可能性があり、職場のストレスなどによって発症、増悪が懸念され、放任しておくと自殺に至ることもあり対処が必要です。いずれにしても、職場と大きく関連しています。

予防という面では、経営者や管理者が社内の事情を一番よく理解しているのですから、結果発生の予見や回避のための行動を指示したり、とったりできる立場にあるわけです。やり方によっては経営上プラスを得ることも可能です。

最近では、管理者をセミナーなどに派遣し、傾聴や交流分析などのカウンセリング技法を習得させる企業が増えています。コーチング技法などをみますと、職務上失敗した部下を頭ごなしに叱りつけ、上司はすっきりするけれど、部下は落ち込みしばらくは業績が上がらないままというような例題を出しています。部下に考えさせ、やる気を引き出し、失敗を繰り返させる、そういう技法を管理者に学ばせています。

経営の視点から掘り下げてみると、健康が事業活動、生産性に及ぼす影響が見えてきます。管理者がこれらを理解している場合は「職場の雰囲気」がずいぶん違ってきますから、こういう管理職の育成は「投資効果がある」といえ、生産性の工場に寄与します。

     5 経営者の元気が企業の元気

 受注生産の企業において納期は大切です。几帳面に手抜きせずこつこつ仕事する、明るく面倒見が良い、粘り強く働く、自分をアッピールしていくという方々がこれらを支えてきています。がんばっているときには交感神経が働き、眠気や疲れを吹き飛ばし、空腹を忘れて働き、充実感を持つこよができます。

しかし、頑張りには反動がつきものです。とくに睡眠不足は判断力が落ち、事故に直結します。週40時間労働制度において残業が45時間を超えると、過労死の可能性が高まってきます。80時間を超えると労働災害と認定される可能性もでてきます。判例では、慢性疲労の原因は恒常的な長時間労働と位置づけ、「常軌を逸した長時間労働はうつ病をもたらすことは周知の事実」と断じています。時間外労働については、週45時間以上の残業がある場合は産業医による助言指導を、また、労働安全衛生法第66条の7により「健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うよう努めなければならない」とあります。

現在は長時間労働で利益を上げる時代ではなくなってきましたし、事例を見ても長時間労働で納期に間に合わせたもののミスが多くクレームが頻発し、その対処の過程でさらに追い詰められ、職場の理解もなく、自責の念から心身に不調をきたし、長期欠勤
うつ病、自殺に至るというケースもありました。経営的な面からもダメージは大きく、経営者としては特に管理を要する場面だという認識が必要です。

これらを重視して成功した企業の事例もあり、仕事と労働者の生活との両立を睨んだフレックスタイムなどの労働時間制度の採用や賃金体系の工夫などは就労意欲や企業への帰属意欲を喚起するものですが快適職場環境の形成、従業員の健康の確保などの高度の経営的判断がいるようです。

これらを円滑に進めるためにはまずは経営者自身が健康に深い関心を持ち、元気を獲得・維持し、その知識や技法を経営や労務管理に生かすという視点での対処をお勧めいたします

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企業経営とリスクアセスメント


企業経営と安全衛生管理

 今石綿についてのこれまでの国や企業の対応が問われています。企業内部の問題としては、これまで対労働者そして対周辺住民の方々との折衝はしてこられたのでしょうが、この夏からは企業のこの問題についてどのような姿勢なのか、世間が注目しています。各企業における対応は、担当者における判断、トップの決断によります。石綿等の産業保健情報等を担当者が理解・対処し、トップがどのように決断したかにより労働者の安全や健康が左右されますし、企業の姿勢が問われることもあります。

 企業のトップの決断は、産業保健関係だけではなく、例えば「某自動車メーカーにおいて欠陥車が市場に出し続けられ、結果事故続発、企業の信頼が損なわれ、当然誰も買わなくなり、企業の存続すら危うくなり」、トップの決断について企業内部から損害賠償請求された事件が新聞報道されました。

 今、企業の社風が問題視されています。社風を乗り越えて、企業の抱える問題を、トップの決断で解決する、これ以外に不祥事となる事態や大事故を避ける方法わありません。

 問題を放置しておかずに解決するためには、トップが企業の方針決定・決断に至る過程にリスクアセスメント手法を導入することが有益かと思われます。

企業においての業績評価(危険が存在、いや倍増している)

 これまでは、企業における担当者が長年培った経験で、安全衛生管理業務を行ってきました。求められたのは無災害という結果であり、中には安全成績を追求することに執着して、到底就労できる状態ではないのに無理やりタクシーに乗せて出勤させてタイムカードを打刻させ、休業件数にこだわって無災害記録の延伸をはかったり、公共発注機関からの指名停止を避けるために、建設業の下請け事業者は元請との関係に苦慮して、事故発生させたにも拘わらず、労災隠し等を行ったりもしていました。

「隠す」という考えで、しかし、たまたま問題が発覚・指摘されずに、従って排除されることなく、間違った業績評価を受けた方々がいます。そのような方が一旦、企業経営に影響を及ぼす立場になられたときに、同じ考えで行動されまうすと、経営を左右するような問題が起きることが懸念されるところです。

企業経営の基本はルールを定め管理すること

 企業経営や安全衛生管理についての基本はルールを定めこれを管理する、守らせることです。そうでなければ、事案ごとにトップが、極端な場合はそのときの気分で、決断することとなり、公平さ
や斉一性を欠いた結果となり、労働者や取引先から不信感を表明され企業経営はうまくでできなくなるはずです。長年の苦労により経験を積み重ねた経営者はその時々の判断であってもあまり世間とのずれがなくてうまく運ぶというケースが多かったとしても、これが経験の少ない2代目となったときや、あるいは世間の大きな変化やグローバル化等で大きく判断がずれたときには、ルールののない経営ではうまくいかなくなり、倒産や損害の発生等に至ることが必定です。

某企業では、作業標準が定められていましたが効率が非常に悪いということもあって、内部では公然と監督官庁に届出た作業標準とは違った作業がなされていました。安全率を見積もった作業標準でしたが、効率が追求され徐々に変化したために、社内でも黙認され、結果ついに大事故に至るまで大胆な作業標準の変化に対しても誰も何も発言しませんでした。災害が出てみると、わずかな利益のために企業の生産設備の大部分を失い、世間の信頼を失い、多くの雇用が失われたことがはっきりしたわけですが、事前に、これらを指摘し元の作業標準に戻す、その指示が担当者にもトップにもできませんでした。「安全文化」が日本全体の課題として指摘されるきっかけとなった大事故となりました。

作業標準は長年の経験や技術的検討を積み重ねて築き上げられた事業場の財産ですが、守られていない場合があります。労働者に対しては教育不足ですし、これを守らせることが管理者の職務ですが、ルール遵守は企業の存続や労働者の安全確保につながる、という強い意識が管理者にないことが事例からわかります。

熱意ある管理者が企業経営を支えてきた

 これまでは熱意ある管理者がルール遵守を担ってきました。そういう方を紹介いたします。その方は熱心だという評判でした。「評判ですよ。」と水を向けますと、その方は、「いいえ、私には残念な思いがあるのです。」と首を振りました。「それは何ですか。」と問うと、「お尋ねですからお話いたします。聞いてください。その時私は安全パトロールを実施していました。高所作業をしている労働者がいましたが、私が見たとき、墜落のおそれがありました。当然私は声をかけました。『おーい、危ないよ。』すると、上から返事がありました。『大丈夫ですから監督さん。うまくやります。』私は急いでいました。それで、作業者には危険性の認識があるようだし、『そうか。じゃあ頼んだよ。』と言って、私はその場を離れてしまったのです。そのすぐ後です。携帯電話に連絡が入りました。先ほどの現場です。墜落災害ということでした。脊髄損傷。その人は一生車椅子から離れられません。私はその時以来、私の見た現場設備の不安全状況、不安全作業、これが、私の目の前で是正されるまでは絶対に現場を離れません。もし、私が熱心だと言われているとしたら、その時のことが頭を離れないからです。」と語りました。
動機付けされる出来事があって職務に打ち込む、そういう管理者があちこちにいれば企業の存続や安全衛生の確保は順調なはずですが、出来事を体験する前に「危険を減少させる」その手法が求められるところです。優秀で熱意ある管理者が育つという失敗体験等にかわるもの、それが企業経営に必要です。

企業におけるリスクアセスメント導入の契機

 大事故の場合は、糾弾されている企業のトップの姿勢がまず目につきます。世間に対する土下座せんばかりの謝罪、経営者の自殺等お気の毒な場面を目にすることがあります。
トップは他山の石とせずに、担当者に対しては、安全や産業保健に関する情報を集めさせ、リスクアセスメント等による対処を定着させ、これにより、上がってくる決裁伺いに対して適切な決断をしなければなりません。
事故により企業利益は吹き飛び、しかるべき時期に対応しなかったことについて、企業からトップに対する損害賠償請求がされたこともありました。また、生産設備の大部分を失うような場合は多くの雇用が失われます。

危険の減少の考え方

  今、結果としての安全や熱意ある担当者が企業や労働者の安全衛生を支えるだけではなくて、「危険の減少」という考え方を中心に据え、組織的に継続的にやる方法として、リスクアセスメントに、企業の関心は高まっています。
しかし、リスクアセスメントを導入したからといって災害が起こらないものでもありません。現に、日本を代表するような企業において当該システムを導入していないわけがないと思われますが、大事故が出ています。どのように理解し、運営するかによるわけです。

どう理解するかについては、中央労働災害防止協会等の担当者による講習会等が開催されていますが、自説を付け加えて解説したいと思います。

すなわち、セミナーを企画するに当たって必ず意見としてあげられているのが、わかりやすく、おもしろく話をしてもらいたいということです。前者はまずご自身が理解するためですが、後者は、今度はご自身が職場に戻って自分の言葉でトップや部下に説明し事業場に定着させないといけないものですので、おもしろいという言葉は語弊があるにしても、そうしないとそもそも職場で聞いて、理解されないからです。講義担当者は受講者が事業場に持ち帰ってどのように伝達するのか、その方法も含めて説明しなければなりません。分かりやすくするためには、事例を交えて話をする必要がありますから、単なる先生では講師としては不向きの場合があります。 そうなると、経験を積んだ方でないと事例は話せないので、それを紹介いたします。

「それは、高速道路取り付けの工事現場でした。山を掘削してダンプカーで麓まで土砂をおろします。そのとき崖からの転落の危険、土砂崩壊とか、ブレーキの故障とかいろいろ危険が予測されましたが、毎朝、ハンドルやタイヤを点検して、『安全よし』、ということで作業をさせてきました。しかし、あれをご覧ください。あれです。あの土盛りです。私は考えました。言葉は妥当かどうかわかりませんが、『安全よしと言いくるめて崖縁の道を走らせる』、このときに、崖から落ちる危険と土盛りにぶつかる危険とを考えました。崖から落ちれば即死、土盛りにぶつければ単にダンプカーが破損する程度です。私は危険な箇所に土盛りをつくりました。」


この現場監督の説明は「危険の減少」という考えをよく表現していてよく表現していて理解しやすいと思います。

安全衛生運動を行い、例えば500日の無災害が達成できたとしてもその事業場が安全だという評価ができるものではないはずです。なぜなら、事業場としては何も変わったわけではありませんし、「危険の存在」は依然として事業場にあるわけです。これまでの担当者は単に無災害記録ににこだわっていただkで、「危険の存在」については手付かずのままでした。事故は発生するものであるという考えが頭から否定されていましたから、危険を減らす、事故が発生した場合でもできるだけ少ない損失になるように対策するおいう考えがあまりなかったわけです。
安全、安全というだけの管理であるなら同種災害の発生の危険は以前と全く変わりませんし、発生した場合、そもそも発生させてはいけないことが起きたのですから、隠したりしたわけです。

企業における同種災害発生の危険

   その現場では、安全基準に反して、フォークリフトのエンジンを止めずに、荷を最低降下位置におろさずに運転手が運転席を離れ、前方に位置して作業を行っていたところ、荷が不安定、フォークの爪が下向き、坂道に止めた等の原因が重なり、荷が作業者の肩上に落下し作業者は即死しました。企業のトップは涙ながらに、もう二度とこのような不安全作業はさせないと決意を述べたのですが、3ヵ月後に事業場に行ってみますと、同僚が即死する災害が発生したばかりというのに、あちこちで相変わらず不安全作業が行われていました。

この報告を見ますと、トップの思いだけでは現場は変わらないことがわかります。特に労働者の意識面への対応は困難です。

企業でのリスクアセスメントの進め方

 対応は客観から主観へと進めていきます。
まずは設備面や管理面から始め、次いで労働者の主観面である意識面への対応を進めることとします。

客観面ではまずは生産設備ですが、国が出している第10次労働災害防止計画において機械メーカーではできうる限りの安全設計を行う、その上で、なお、対処しきれない危険についてはユーザーに使用上の留意点を説明する等安全情報を共有することにより安全確保をする旨を求めています。

事業場においては、機械設備は生産工程ごとに逐一見ていかなければなりません。危険の存在がどこにあるか、それはどの程度の事故を引き起こすのか、発生の頻度はどの程度か等を評価していくのですが、熟練者とそうでない方とでは評価に差が出てきます。客観的な評価として数字で何点と評価するようリスクマネジメントの解説本に記載されていますが、ここは一番難しいわけです。

リスク判定の基準の例

けがの可能性 ウェイト けがのひどさ ウェイト 危険の頻度 ウェイト
ほとんどない 軽傷 めったにない
可能性がある ひどいけが ときどき
可能性が高い 重症 頻繁
確実である 致命傷 10

 例えば工程の最初の箇所、機械設備に角があることを指摘。側を通行中身体に触れて負傷する。これを手の甲が触れて切り傷がつくと評価するか、たまたま近くの床が滑りやすく、転倒して頭を打って頭蓋骨骨折に至ると評価するかによってずいぶん差が出るわけです。いずれの場合もその機械設備の角を養生すれば、ただいまの指摘に関する危険は減少したことになります。
切り傷と頭蓋骨骨折という最初に行った危険の程度の評価は、対策を行う場合の優先度の決定つながるものです。頭蓋骨骨折の危険があるというのなら優先的に対策を実施すべきは当然です。

これが第一段階の取り組みとしたときに、対策により危険は減少しました。担当者は達成感も出るし、経験を積んだことになります。担当者は事業場の「危険の存在」を減少させたという手応えのある仕事をしたことになります。

次の工程について、今度は床に這わせているホース類がつまずきの原因となる、と現場を見て危険予測した場合、現場の危険のおそれを見て放置していれば安全配慮を尽くしたことになりませんから、当然対策が必要です。第一段階で危険が減少していますから、第二段階ではさらなる危険の減少のために対処することになります。ここではホース類を天井に沿わせたとしますと、つまずく危険は減少したことになります。
このように次々と現場で危険を減少するための取り組みを行うことにより、言い換えると、計画(Plan)、実施(Do)、評価(Check)、改善(Act)を繰り返し行ったことになり、あたかも螺旋状に上るごとく現場の作業環境が向上していきます。
「当初の危険」と「取り組みを続けた結果なお現場に残っている危険」を比べたときに、この程度ならたとえ事故が発生しても許容範囲であるといえる段階があります。

ここまで客観的な対応を進め、さらに、これと同時並行的に主観的な対応も進めます。それは、労働者の不安全行動の問題です。そのときの労働者の心理状態である例えば出荷をせかされて急いでいる、過重労働でへとへとであり注意力が
散漫、家庭内のことで心配してぼんやりしている、新規導入した機械類を習熟していないので使いこなせずあせっている等のときには、誤操作や近道行動等の危険が予測されます。

改善提案の時の費用、決裁の問題

職場で担当者が、危険を評価し、対策を立てるわけですが、予算が必要です。予算は限りがありますから、経営者、管理者は、費用対効果の検討や優先度を評価します

このときに、事業場に導入され・定着したリスクアセスメント制度としての提案であれば、個人提案として決裁が求められた時を比較してみると、どうでしょうか。緊急を要し、発生頻度が高く、重大な災害につながるということが、このリスクアセスメント評価手法に添ってなされ、客観性やこれまでの成果を上げてきた実績あるものであるとしたら、決裁権者は否定し難いはずです。

もし、否定して、直後に災害が発生したなら、そのときの決裁に責任が生じますし、その責任というのは、「危険を認識し『かくあるべしという』行動が期待される立場だったのに、あえて、何も行動しなかった」という悪意ある不作為として問われるわけです。もちろんトップは会社の資産運用に責任がありますし、多額の費用がかかる決裁を求めるのですから、十分な検討が必要です。

例えば、自動列車制御装置の導入時期延期や高圧蒸気配管の補修時期の延期などの判断をトップがしたときに、時間が経つに比例して、事業場におけるリスクは上がっています。安全率を見込んだ決裁をする、懸念ある決裁をしないためには、上司としては、納得できる説得力ある資料が必要ですが、このためには、リスクアセスメント手法の採用や実績の積み上げを、担当者に求めるわけです。これらを踏まえたときにはトップの決断は、社内制度と根拠により行なったものですから、恣意的なものとはなりません。すなわち、トップが企業内部から損害賠償請求されるというその「危険の存在」も軽減されています。

リスクアセスメントは人材養成

 折角この制度を導入しても、担当者が危険を見極めることができるかどうかが第1関門です。担当者が見過ごせば「危険の存在」がいつまでも事業場に在って、いつかは事故につながることになるからです。すると、この制度導入で重要なのは、管理者の職務能力ということですが、この制度が優れているのは、職務を継続して行っている担当者の職務能力の向上が期待できることにあります。

 すると、リスクアセスメントは、人材養成の制度でもあり、また、担当者においては職場環境をよくした、危険を減少させ作業効率を上げたという達成感が生まれます。ベテランの担当者が退職してしまう、次の担当者が育っていないという世代間交代の間の危険を埋めてくれることも期待できます。
危険予知訓練は作業開始前にその作業について危険の減少を視点にシミュレーションするわけですが、その時々の行動による危険の回避を主眼においています。この訓練は職場で従前から実施されてきましたが、その効果は、当該作業のみに限定されていました。

リスクアセスメントは、作業者の立場ではなくて、管理者の立場として、危険の減少をはかるものですが、例えば、1カ所で危険を評価し、対策を取って危険を減少させたとしたら、担当者の経験が増します。別の箇所についてリスクアセスメントをするときには、前回の経験が後押ししてよりいっそう適切なリスクアセスメントができます。担当者の能力がどんどん向上し、これに比例して、事業場内のリスクがどんどん減少していくことが期待できます。

導入している企業とそうでない企業との差は歴然です。しかも、この手法は、安全だけではなくて、個別的対応が求められる健康管理面でも応用できますし、企業経営にも応用可能です。


リスクアセスメントの導入事例

 まず、危険予知訓練の継続的取り組み事例を紹介いたします。

「危険予知訓練であっても、危険予知シートを毎日何枚かを書かせるようにしています。すると、日が経つにつれ、その人の安全に対する考えが変わってくるのが、シートの記載内容から手にとるようにわかります。取り組み姿勢がだんだん変わってきます。

シートの枚数ではなくて、その姿勢を評価し、情熱を讃えるようにすると、参画意欲が向上してきます。職場の全員の熱意を醸成することもできます。

シートに対する上司のコメントを見るとその人の安全に対する取り組む姿勢が明確になってきます。結果としての災害ゼロだけが目的ではなく、現場全体での取り組みそのものが成果です。

危険予知訓練だけではもの足りないなら体感訓練も工夫できます。例えば、墜落の安全対策としての安全帯、どれくらいの力がかかるかを60キロくらいの砂袋を木材につなぎ、高所から落下させ、その衝撃でバキッと折れる音を聞かせたりします。受け止め方が全然違ってきます。回転体の近くに位置させてみてその風圧などを体感させる等によっても同様に安全に対する意識がずいぶん違ってきます。やっていて手応えを感じました。」


続いて、リスクアセスメントによる取り組み事例をご紹介します。

「高所の点検箇所に行くのに、頑丈なゴム制の手袋をはめていますが、脱ぎにくいし、高所で保護具を外すことは非常に危険ですから、何箇所かの点検結果を記憶して降りてきます。降りてきて、いざチェックシートに記載しようとしたら記憶違い等があって間違えた点検結果になったり、もう一度高所に戻って点検のやり直しを行ったりしていました。

対策として、リスクアセスメントによる検討をいたしました。提案により、携帯型PHSを導入することとし、ヘルメットに取り付け、手袋を脱がなくても下で待機している同僚に連絡できるようにしました。点検結果の連絡方法ですが、何箇所かある点検箇所に番号を付けました。それぞれ番号ごとに点検結果を下で待機している同僚に伝えることとし、正確に伝達できるよう工夫しました。記載間違いが無くなり、点検の誤りによる故障防止につながるとともに、より安全に作業ができるようになりました。」

以上をみますと、目に見えた成果が感じられます。特にリスクアセスメントの体験事例では生産性向上にもつながっていることがわかります。

企業の発展と危険の減少

 リスクアセスメントの導入に当たっては、現状把握、基盤整備、導入宣言、内部監査要員養成を順次行います。制度が定着したら適格認定申請、そしてフォローという流れになります。現状把握につきましては、法令遵守、仕組み、活動、成果を評価します。基盤については安全管理を現場任せにしていないか、管理体制が明確か等をみます。フォローですが、職場巡視で問題点を把握します。人材養成が進めばリーダーとして発令をします。適格認定申請は外部からの評価ですから、トップの意識・意欲、全員の意欲が高まります。
なお、導入しただけで、直ちに災害減少につながるというものではありません。また、生産工程ごとに危険の存在を評価し続けるのですから担当者が楽になるというものでもありません。
  リスクアセスメントは、チームでやる作業ですが、複数作業は全員の合意がなければうまくいかないので、効率的運営も視点に入れ、リスクアセスメントは、3人程度でやるのがよいと思われます。

「危険の減少」の取り組みは、担当者を限定することなく、職長のチームや管理者のチームが、それぞれで、同じ工程に対して、やってもよいわけです。一人の個人が全責任を負うものではありませんし、複数で検討した方が視点も経験も異なるのですから、より多彩な意見が出される可能性があります。

以上をまとめますと、リスクアセスメントは、改善という行動をとり、そのことがリスクの減少に結びつきますので、ただ「安全という概念」を発言するだけのものとは全然違うわけです。しかも、リスクアセスメントは、「危険の存在」が減少した段階を起点にし、さらに、第2段階のリスクアセスメントに進むものです。もちろん、エンドレスではなく、危険が容認できる段階までこれを繰り返すことで足ります。なお、担当者は経験を積み重ねることができますので、人材が育ちます。

決裁伺いの段階では根拠の積み重ねに基づいた資料があるのですから、トップの決断に恣意的な判断を差し挟むことが無くなります。

リスクアセスメントは、設備的対応と併せその日その日の体調等の個人的要因との組み合わせによる危険をも考慮しなければなりません。日々の作業については危険予知訓練との組合せを配慮します。

危険の存在を認識したときの対応は、放置したときに、結果を容認したものととらえられるわけですから、直ちに対策しなければなりません。このことから、担当者が能動行動的に動き、不作為という企業経営にとってマイナスな要素が減少します。 リスクアセスメントは、危険の存在を認めて対応するものですから、情報を開示するという最近の社会からの要請に合致していますし、常にスパイラル方式で、継続して向上していけるというシステムですから、企業発展につながるものです。

手法として、確実に事業場内の危険が減少していくのですから、大きな一度の決裁ではなくて、継続的に、決裁を積み重ねることにより、誤ったトップの決断で事故の発生に至るようなことを避けることが可能になってきます。

課題例(地下鉄電車内で揮発性液体をばらまき放火するという危険について

 実際に韓国で、2003年に発生しています。死者50名を超える惨事となりましたが、車両内に有毒ガスが充満、停電も重なって被害が拡大しました。車内からドアが開けられず、地下商店街も防火シャッターが自動的に閉鎖、乗客は逃げ場を失いました。

対策としては、車両の難燃性化、排気システムの容量、大衆交通手段での持ち物チェックなどの問題があります。

交通を経営する事業者がどのような安全対策をとっているのか、乗客には何も知らされていません。テロ事件の危険も心配です。ロンドンの惨事は周知の事実となっています。

経営者が何も対策を取らないから乗らないということもできません。しかし、いつも危険と隣り合わせで乗車しければならないことになります。乗客の側からの働きかけが何かあるのか、対策と改善をシミュレーションしていただきたいところです。

危険の存在 頻度 危険の程度 具体的対策 対策の問題点
危険物が社内に持ち込まれる めったにない 容認できない大災害 持ち込み抑制

車内アナウンス
車掌パトロール
監視カメラ

改札の駅員の配置
場所
掲示
大衆交通手段であり、対象が多すぎる
プライバシーの問題
避難誘導 可能性がある 大勢の転倒による災害

火災、有毒ガスの発生
誘導経路の表示
担当者の配備
停電時の対応
避難訓練
有毒ガス対策
ホームでの転落防止
車内からのドア開き
大混雑
ホーム以外での随時停車の場合

地下商店街との連携

車内でのテロ 可能性がある 爆発物、凶器による危険 乗客による対応
乗務員への連絡体制
対策方法が乗客に周知されていない
神戸元町労務管理サポート
(旧かくもり労務管理事務所)

〒650-0012
兵庫県神戸市中央区
北長狭通5-2-19
コフィオ神戸元町311号室

JR元町から徒歩2分

TEL 078-599-5018
FAX 078-599-5019

Mail y.kakumori@nifty.com

プロフィール

角森洋子
特定社会保険労務士・
労働衛生コンサルタント
(元労働基準監督官)

詳しくはコチラ

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