神戸元町労務管理サポート 社会保険労務士 角森洋子(元労働基準監督官)による就業規則作成、変更支援

就業規則作成・改善相談室

労働相談Q&A、年次有給休暇

私傷病入院と年次有給休暇

Q1
労働相談Q1 私病で入院中の従業員が、年次有給休暇が全部残っているので、入院期間の一部について年次有給休暇の取得申請をしてきたが、認めなくてはならないか。入院中でも年次有給休暇を取得させなければならないのか。

A 年次有給休暇は、賃金を減額されることなく、所定労働日に休養させるために付与されるものですが、法律上はこれをどのような目的のために利用しようと問題にしていません。したがって休暇の利用目的が休養でないという理由で使用者が拒否することは法律上認められません。

また、年次有給休暇は労働の義務を免除し、その賃金を保証するものだから、年休を使用することができるのは労働義務のある日(労働日)ということになります。病気療養中であっても、休職となる前の期間は本来は労働日であり、免除されるべき労働義務があるので年休をとることができます。

したがって、質問の場合、休職扱いになるまでは年次有給休暇を取得できるということになります。
しかしながら、病気療養中ですでに休職発令が出ている場合は労働義務が免除されているので年次有給休暇をとることはできません。
・・・労働基準法第39条

【長期休業中の場合の年次有給休暇】解釈例規

問 長期休業中の労働者の年次有給休暇の行使に関し、左記のとおり取扱ってよいか。
(1) 負傷又は疾病等により長期休業中の者が休業期間中年次有給休暇を請求したときは、年次有給休暇を労働者が病気欠勤等に充用することが許されることから、このような労働者に対して請求があれば年次有給休暇を与えなければならないと解する。
(2) 休職発令により従来配属されていた所属を離れ、以後は単に会社に席があるにとどまり、会社に対して全く労働の義務が免除されりこととなる場合において、休職発令された者が年次有給休暇を請求したときは、労働義務がない日について年次有給休暇を請求する余地がないことから、これらの休職者は、年次有給休暇請求権の行使ができないと解する。

答 (1)、(2)とも貴見のとおり。
(昭24.12.28 基発1456号、昭31.2.13 基収489号)「労働基準法解釈総覧」  平成14 厚生労働省労働基準局編 労働調査会 

年次有給休暇の消化の順序

労働相談Q2 

年次有給休暇の繰越分と新規付与分がある場合どちらから消化するのか。

A その年度(付与された年度)に使用されなかった年次有給休暇は次年度に限り繰り越します。・・・労働基準法第115条(時効)

【有給休暇の繰越】

 有給休暇をその年度内に全部とらなかった場合、残りの有給休暇は権利放棄とみて差し支えないか。又は次年度祖に繰越してとり得るものであるか。
 法第115条の規定により2年の消滅時効(権利を行使しない状態が一定期間継続した場合、その権利を消滅させる制度)が認められる。(昭22.12.15 基発501号)「労働基準法解釈総覧」 p450 平成14 厚生労働省労働基準局編 労働調査会 

 繰越した年次有給休暇と新たに発生した年次有給休暇と、どちらから先に使用するかについては労働基準法に規定がありません。「労働基準法 上」p567〜568(厚生労働省労働基準局編 平成17年 労務行政)によると

「前年度のものであるか当該年度のものであるかについては、当事者の合意によるが、労働者の時季指定権行使は繰越し分からなされていくと推定すべきである。(「労働法 第六版」菅野和夫  p326〜327 平成15年 轄O文堂)なお、民法第489条第2号により当該年度のものとすべしとする反対説がある(松岡「条解(上)p513、寺本「解説」p312))。

前掲菅野和夫著「労働法 第六版」を見ると、
「前年度のものであるか当該年度のものであるかについては、当事者の合意によるが、労働者の時季指定権行使は繰越し分からなされていくと推定すべきである。(弁済の充当に関する民法489条第2号を引用して、当年の年休の時季指定と推定すべしとの反対説があるが、同号による必然性はない。)」
と反対説についての見解を述べています。

したがって、労使間に特に取り決めがない限り、繰越分から使われていくことになります。

そうすると「労使で合意すれば当該年度分から消化」ということに注目して就業規則の変更を意図する使用者がいてもおかしくありません。しかし、既に長年にわたって「繰越分から使う」ということが就業規則に定められている(あるいはそういう慣習がある。)のに、「労使間の合意による」のだから就業規則を変更して、当該年度の年休から消化するようにしようと意図してもそれは簡単なことではありません。そのような変更は、年休消化順序の解釈の問題を離れ、就業規則の不利益変更という別の問題に変わってしまうのです。このような不利益変更には一般的に考えて合理性があるというのは難しいでしょう。

 

民法第489条(法定充当)
弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の指定をしないときは、次の各号に定めるところに従い、その弁済を充当する。
一 省略
二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。

年次有給休暇取得と不利益取扱い

労働相談Q3 
年次有給休暇をとらずに働いている労働者を厚遇したいが、年休の取得率が高い者とどのような差をつけたらよいか。

A 年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額や精皆勤手当や賞与の算定などにあたって、欠勤扱いするなど不利益な取扱いをしないようにしなければなりません。・・・労働基準法第136条

年次有給休暇を取得したことを理由とした不利益取扱いについては労働基準法第39条の精神に反するものとして、また減額の程度によっては公序良俗に反するものとして民事上無効と解される場合もあるという考え方がとられてきました。しかし、しばしば不利益取扱いが見られることから、労働基準法第136条が追加されて明確化されたものです。

 むしろ年休を取得しない労働者に対して計画的付与制度(労働基準法第39条)を導入するなどして年休を取得しやすい環境づくりが必要です。

未払賃金請求事件:大瀬工業事件:
就業規則に定める出勤奨励金制度において年休で欠勤した日を通常の欠勤日として取り扱われ、当該手当を支給されなかった従業員が、その支払を請求した事例。(請求認容):労働基準法39条
年休(民事) / 年休取得と不利益取扱い
1976年03月04日:横浜地:判決:昭和47年 (ワ) 1616 
認容(確定):時報820号111頁/タイムズ346号284頁

年次有給休暇の請求の時期

労働相談Q4 
年次有給休暇を請求したところ、請求は2週間前でないと認められないと言われた。2週間前の請求について事前に何の説明もなかった。6月1日で年次有給休暇の権利が発生することすら会社側は知らなかった。
6月11日から3日間の年休を請求し、派遣先の承認もとり、年休を取得した。
6月14日に出勤したところ、その日で来なくて良いといわれた。
6月17日から20日まで年休を請求したところ、休業手当を払うといわれた。

A 年次有給休暇と解雇の二つの問題があるのですが、ここでは年休について説明します。

年次有給休暇を請求する権利は、取得の時季を指定するという行為によって行使されます。労働者が年次有給休暇を具体的に月日を指定して請求してきた場合は、使用者が時季変更権を行使しない限り当然に指定された日は休暇日となります。つまり、年次有給休暇の取得を使用者が認めるか認めないかという問題はありえないのです。

それでは、労働者はいつまでに年休を請求すべきか、この質問のように2週間前にという決まりを作ってもいいのかという実務上の問題が出てきます。そして、定められた一定日数あるいは一定時間前までに時季指定されなかった年次有給休暇の請求は拒否できるのかという疑問が生じます。労働基準法にはこのことについて定めがありません。

 判断の材料となるものは、使用者が時季変更権の行使を行使する時間的余裕があるかどうかということになります。これについては、「このような就業規則の定めは、有給休暇の時季を指定すべき時期につき原則的な制限を定めたものとして合理性を有する」とした最高裁判例(下記に詳細を示す)があり、また「労働者による年休請求は、使用者が事前に時季変更の要否を検討し、当該労働者にそれを告知するに足りる相当な時間をおいてなされなければならず、年休の事後請求という概念は本来成立しない性質のものである」という判例もあります。

 したがって就業規則に「従業員は、年次有給休暇を取得しようとするときは、やむを得ない場合を除き、原則として前々日までに年次有給休暇請求簿にて会社に時季を指定して請求するものとする。」というような規定をおくことは可能です。このような規定を定めた場合、当日の朝の電話での請求を拒否しても違法とは言いにくいということになります。だからといって、常にこのような年休が認められないというわけでもありません。

通常は前日の勤務時間終了前までに請求ということが行われているのではないのでしょうか。 もちろん事後届けの年休を認めることもかまわないし、一般的に行われていることです。

この質問の場合の2週間前というのは、時季変更権の行使の余地から考えて合理的な理由もなく長すぎるといえるでしょう。しかも、派遣先の会社では年休の取得について承認しているのですから時季変更の必要性もなかったということになります。

「若干の問題は、就業規則などにおいてかかる具体的時季指定を休暇日の一定日数ないし一定時間前までになすべきことを規定できるかである。」判例は(電電公社此花電報電話局事件 下記のとおり)は、そのような定めは合理的なものである限り有効であるとした。

なお、労働者が急な理由で欠勤した場合にそれを事後的に年休日に振り替えてもらうことがあるが、このような欠勤日の年休日への振り替えは使用者の同意がある限りは法によって排斥されていないものというにとどまる。」(「労働法 第六版」 p318 菅野和夫 弘文堂 平成15年)

?

電電公社此花電報電話局事件
年次有給休暇の請求を2日前までに行うこととする就業規則について、時季を指定すべき時期について原則的な制限を定めたものとして合理性が有り、有効であるとするもの(1982.3.18 最高裁一小 昭和53年(オ)558)民集36巻3号366頁、時報1037号8頁)

退職時の年次有給休暇請求

労働相談Q5
退職時に年次有給休暇を請求されたら全部認めなければならないか。

A 退職届を提出しても、あるいは解雇の予告をされても、退職(あるいは解雇)の効力が発生するまでは、年次有給休暇を取得する権利はなくなっていません。労働者の年休の時季指定に対して、使用者は時季変更権をもっていますが、仮に時季変更権を行使しようとしても退職日以降に変更する余地はないので年次有給休暇の取得を認めざるをえないということになります。解釈例規は次のように言っています。

【年次有給休暇請求権と解雇】解釈例規

問 法第20条によって解雇をしようとしたとき当該労働者が20日間の年次有給休暇の権利を有する場合、法39条による労働者の権利を如何に取り扱うべきか。年次有給休暇請求は雇用契約上の権利であるから解雇によって一応消滅することも考えうるが、雇用契約上の権利としては未払いの賃金に対する請求権と何等差異なく権利は消滅するものではないから予告期間中に有給休暇を与えるべきを至当と考えるが如何。

又即時解雇の場合は有給休暇の付与を会社側の都合により延期している場合にはその休暇日数に応じ平均賃金を支払ったうえ解雇手当を支払うことが妥当と認めるが如何。

答 年次有給休暇の権利は予告期間中に行使しなければ消滅する。
(昭23.4.26 基発651号)「労働基準法解釈総覧」  平成14 厚生労働省労働基準局編 労働調査会 

年次有給休暇の買上げ
Q6
退職する社員が使い切れなかった年次有給休暇を、買い取ってほしいと要求しています。会社に買い取り義務はありますか。
 

 A 年次有給休暇の買上げの予約をし、それにより年次有給休暇の日数を減らしたり、請求された日数を与えないことは労働基準法違反となります。

労働者が年次有給休暇権を行使せず、その後時効、退職の理由で消滅するような場合に、残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることは、好ましくはありませんが、事前の買上げとは異なり必ずしも法違反とはなりません。
会社に買い取り義務はありません。

 

神戸元町労務管理サポート
(旧かくもり労務管理事務所)

〒650-0012
兵庫県神戸市中央区
北長狭通5-2-19
コフィオ神戸元町311号室

JR元町から徒歩2分

TEL 078-599-5018
FAX 078-599-5019

Mail y.kakumori@nifty.com

プロフィール

角森洋子
特定社会保険労務士・
労働衛生コンサルタント
(元労働基準監督官)

詳しくはコチラ

このページのトップへ戻る