神戸元町労務管理サポート 社会保険労務士 角森洋子(元労働基準監督官)による就業規則作成、変更支援

 就業規則作成・改善相談室

労働相談Q&A   採用内定、労働契約

Q1 採用内定の意味
息子が採用内定通知をもらってほっとしましたが、今度は取り消されたらどうしようかと不安になります。採用内定とはどういう意味があるのでしょうか。


A 結論から言いますと、一般的には取り消しされることはないので、必要以上の心配する必要はありません。内定通知を受け、入社の意思を固めた場合、必ず書面でその通知や契約をしていだたく必要があるので、息子さんに書面の有無を確認しておくといいでしょう。参考までに取消の可能性と採用内定の法律的な性質を述べておきます。

 内定取消の可能性としては、
1 会社側の原因
景気の回復が回復していない状況の今日では、内定を出した後に、経営の悪化や何らかの会社側の諸事情を理由に内定を取り消される場合も考えられます。

2 息子さんの側の原因
提出した「誓約書」に書かれていたと思いますが、
(1) 単位不足で卒業できないとき
(2) 健康を著しく害したとき
(3) 反社会的な行為(窃盗、傷害、暴行、放火、器物破損等)があったとき


採用内定について

 採用内定には、大学生の場合、高校生の場合、一般の場合といろいろあり一律の説明はできません。ここでは新規学卒者の特に大卒者の場合について説明します。新規学卒者の採用にあたっては、在学中に内定という手続をとるのが長い間の雇用慣行になっています。
近年採用内定は早期化し、卒業の半年以上前には出されているようです。その流れを見ると、3年生の10月資料請求→1月会社訪問→3月から5月に採用試験→夏までに正式内定というようにようになります。

就職活動の流れ

最近1〜2年 1995年〜1996年頃
3年生 5月〜6月 就職希望者向け説明会 ・・・
7月〜9月 就活websiteに登録、インターン(企業体験) ・・・
11月〜 就活本格化、OB訪問、合同企業説明会 ・・・
1月 企業へのエントリーシート提出、企業別に説明会 資料が届く、学校での説明会
2月 筆記、面接試験 ・・・
3月 就職試験のピーク 企業説明会
4年生 4月 エントリー可能企業減り始める ・・・
5月〜 内定者が続々 面接試験始まる
7月〜 ・・・ 内々定をもらう学生が出始める
10月 ・・・ 正式に内定が決まる

採用内定の法律的性質(=解約権留保付の就労始期付労働契約)

判例・通説は、始期付解約権留保付労働契約成立説をとっています。

■労働契約であること

企業による労働者の募集は労働契約の申込みの誘因
であり、これに対する
求職者(学生)の応募または採用試験の受験は労働者による契約の申込み
です。そして、
企業からの採用内定通知の発信が使用者による契約の承諾
であり、これによって両者に
始期付きの解約権を留保した労働契約
が成立します。

したがって、文書による採用内定通知を受け、入社同意書や誓約書等を提出した採用内定のような場合には、これを取消すことは労働契約の解約(留保された解約権の行使)すなわち解雇と同様に取り扱われるということになります。

■始期付であること

この契約は、入社予定日を就労の始期とする、始期付きであること。

■解約権留保 付きであること

採用内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取り消し事由が生じたときには解約できる旨の合意が含まれており、また卒業できなかった場合も当然に解約できるものということです。

(1) 単位不足で卒業できないとき
(2) 健康を著しく害したとき
(3) 反社会的な行為(窃盗、傷害、暴行、放火、器物破損等)があったとき

大日本印刷事件 雇用関係確認、賃金請求事件

事案概要 
グルーミーな印象であることを理由とする採用内定取消につき、採用内定通知により解約権を留保した労働契約が成立するとして、本件取消は解約権の濫用に当るとした事例

〔労働契約―採用内定―法的性質〕
  本件採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮するとき、上告人からの募集(申込みの誘引)に対し、被上告人が応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する上告人からの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、被上告人の本件誓約書の提出とあいまって、これにより、被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を昭和四四年大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の五項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解する。
  〔労働契約―採用内定―取消し〕
採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。これを本件についてみると、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件採用内定取消事由の中心をなすものは、「被上告人はグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった。」というのであるが、グルーミーな印象であることは当初からわかっていたことであるから、上告人としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかったので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきであり、右のような事由をもって、本件誓約書の確認事項二、(5)所定の解約事由にあたるとすることはできないものというべきである。 (1979.7.20最高二小昭52(オ)94)民集33巻5号582頁/時報938号3頁/タイムズ399号32頁/労経速報1020号3頁/裁判所時報769号1頁/金融商事586号43頁/裁判集民127号259頁)

採用内定取り消しの適法性

採用内定を始期付解約権留保付労働契約の成立であるとすると、採用内定取り消しの適法性は、留保解約権の行使の適法性の問題となります。

解約事由は、採用内定通知書や誓約書に記載された取消事由をもとに決定されますが、それに拘束されるのではなく、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認されるものに限られる」(大日本印刷事件 最高裁 昭54.7.20、電々公社近畿電通局事件 最高裁 昭55.5.30)とされています。
大日本印刷事件では、慰謝料100万円と判決時までに支払われるはずだった賃金支払いが命じられました。

採用内定取消行政的規制

職業安定法の「雇い入れ方法等の指導」の規定に基づき、「新規学校卒業者の採用内定取消等に係る事前通知制度」
内定期間にこれを取消したり、内定期間を延長しようとするときは、あらかじめ所轄の公共職業安定所長または関係の施設(学校)の長にその旨を通知するものとされ、公共職業安定所長はこの通知を受けてすみやかにその回避について指導を行うこととされています。

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Q2 採用内定辞退
誓約書提出後に採用内定を辞退することはできますか。

A 会社に誓約書を提出したことにより、労働契約が成立しています。内定を辞退することは、労働契約の解約をするということになります。労働者からの労働契約の解約については、合理的な理由は必要ありません。民法627条「当事者が雇用の期間を定めざりしときは各当事者の一方は何時においても解約の申し入れを為すことを得この場合においては雇用の解約の申入れの後2週間を経過したるに因りて終了す」と規定しています。少なくとも2週間前ということにはなりますが、なるべく速やかに内定辞退を伝える必要があります。そうすれば通常は法的な責任を追及されることはないでしょう。

最近は複数の内定を取得する学生が多いので、内定辞退が増えています。これに対して損害賠償を請求することは、一般的にはありません。損害を立証することが難しいこと、また、それに費やす費用の点から考えても法的な措置を企業側がとることは考えにくいでしょう。
しかし、内定をもらっておいて辞退の連絡もせずに入社日を迎えるようなことになると損害賠償を請求されるおそれがあります。丁重に辞退の意思表示をしなければなりません。

1 第一志望の内定通知があった場合で、他の会社からはまだ内定をもらっていない場合 同時並行で受験していた企業に対する今後の試験の受験を続けてみた方がいいそうです。第一志望と思っていたけれども、他の会社の受験手続を進めていくなかで、他の会社のほうが自分に合っていることを発見する可能性もあるというのが理由です。

2 第一志望の内定通知があった場合で、それ以前に内定通知を戴いた企業がある場合 その企業に対してより一層丁重なお断りをしなければなりません。
お断りする具体的な方法については大学の指導教員または、就職支援課に相談するのが良いでしょう。実際に企業の人事担当者に訊いた結果については下記のとおりです。

M社の場合: 一日でも早く電話を一本架けてくれればいい。その場合に後で手紙を書く必要はない。内定通知後2,3週間以内であるのが望ましい。
H社の場合:
連絡は早いほうがいい。辞退の意思表示に会社に来てほしい。参考までに、内定辞退を回避するために内定後は自社の若い社員とできる限り接触してもらい、会社になじんでもらうようにしているそうです。

 また、内定通知を受け、入社の意思を固めた場合は、内定を出した後に、経営の悪化や何らかの諸事情を理由に内定を取り消される場合も想定して必ず書面でその通知や契約をしてもらいましょう。

Q3 求人票の内容と賃金が違っていた。
ハローワークの紹介により6月26日に入社。8月17日まで勤務した。求人票では月135000円〜となっていたのに、支給されたものを見ると低くなっていた。納得がいかいない。

A ハローワークの求人票(求人誌、新聞・チラシの求人広告なども同じ)は法律的には「誘引行為」として、求人募集への応募を誘い、引き付けるための条件が示されているものです。求人票に書かれていることが自動的に個々の労働契約時の労働条件を確定するものではありません。

求人者がハローワークに求人の申込みをするのは法律上「申込みの誘因」であり、これに対し、求職者がハローワークを通じて応募するのが「契約の申込み」で、この求職者の契約の申込みに対して、求人者が承諾を行うことによって契約が成立します。

したがって、労働者は採用時にあらためて労働契約の内容を確認する必要があります。とくに賃金の見込み額、実績額のみが表示されている場合などは注意する必要があります。

もちろん使用者には労働基準法第15条により賃金等労働条件について書面で明示する義務があります。

 そこでこの場合は使用者に労働基準法上の義務を怠っているという問題があるということになります。労働契約の締結は労働者にとって大変重要なので思い切って労働条件通知書を書いてくださいと要求しましょう。

なお、労働者の募集を行う者に対し、次のような指針が示されています。

【職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に対して適切に対処するための指針】 平11.11.17 労告141号)。

明示する労働条件等は、虚偽または誇大な内容としないこと。
求職者等に具体的に理解されるものとなるよう、労働条件等の水準、範囲等を可能な限り限定すること。
求職者等が従事すべき業務の内容に関しては、職場環境を含め、可能な限り具体的かつ詳細に明示すること。
労働時間に関しては、始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働、休憩時間、休日等について明示すること。
賃金に関しては、賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等について明示すること。
明示する労働条件等の内容が労働契約締結時の労働条件等と異なることとなる可能性がある場合は、その旨を併せて明示するとともに、労働条件等がすでに明示した内容と異なることとなった場合には、当該明示を受けた求職者等に速やかに知らせること。
労働者の募集を行う者は、労働条件等の明示を行うに当たって労働条件等の事項の一部を別途明示することとするときは、その旨を併せて明示すること。
神戸元町労務管理サポート
(旧かくもり労務管理事務所)

〒650-0012
兵庫県神戸市中央区
北長狭通5-2-19
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TEL 078-599-5018
FAX 078-599-5019

Mail y.kakumori@nifty.com

プロフィール

角森洋子
特定社会保険労務士・
労働衛生コンサルタント
(元労働基準監督官)

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